NEWS
「横浜市南区斜面崩壊」災害状況(1999年2月17日)
1999年2月17日 横浜の急傾斜地崩壊 |
1999年2月17日の横浜市南区で発生した斜面崩壊に際し、崩壊の状況を把握するために20日土曜日に緊急撮影を行いました。また、発生の翌日に撮影した速報写真と、2月28日の現地写真も紹介中です。なお、このページの内容をもとに「日本地質学会News」に速報として報告しました。 1999年4月4日版 |
概 要 |
1999年2月17日(水)21時49分ごろ、横浜市南区中村町5丁目319-3のマンション「ワコーレ吉野町ガーデン」(7階建て183世帯入居、昭和62年建設)の裏の斜面で崩壊が発生した(1/2,500地形図)。崩壊土砂は、崖とマンションの間の隙間に山をなすように堆積し、マンションの2階付近まで達した。このため、1・2階の20戸が土砂により一部破損し、男子高校生が、割れたガラスで顔や足に軽いけがをした。 崩壊のあった場所は、本牧台地とよばれる標高50mの海岸段丘の西の縁で、崖の上は米軍根岸住宅となっている。崩壊した崖は、モルタルで覆われたほぼ垂直の人工斜面。崩壊した部分は、高さ約30m、幅約60mにわたっており、推定約600立方メートルの土砂がマンションに向かって落ちた。 がけ崩れがあった17日朝には「がけを覆っているコンクリートがひび割れ、膨れ上がっている。がけに幅10センチの亀裂が入り、内側から土がこぼれ落ちている」とのマンション管理者からの通報があった。そのため、午後2時頃、横浜防衛施設局の職員が現場を訪れ、写真を撮った。横浜市によると、昨年秋にも別の部分で土砂崩れがあり、ダンプ車で3、4台分の土砂が崩れ落ちた。 崩壊の発生した斜面は、防衛施設庁が民間の土地所有者から借り上げて米軍に提供し、施設庁が管理していた。国が管理している斜面であるため、神奈川県では、急傾斜地崩壊危険区域の指定は行っていない。 崩壊直後より、防衛施設庁が土砂の取り除き作業を行うとともに、現在応急対策工事を実施中。また、横浜防衛施設局では、4日、今後の恒久対策を行うために、専門家による対策委員会「根岸住宅隣接がけ地崩落対策委員会」*1)を設置し、崩れた原因や長期の安全策の検討を開始した。 |
地形地質 |
横浜市南区にある本牧台地は、表面が平坦な標高50mほどの海成段丘で、今から約15万年前に形成された海食台が隆起したもので、下末吉面と呼ばれる。 基盤はほぼ水平な構造をもつ上総層群からなり、シルトや砂の互層で構成される。岡(1991)によれば、この付近での不整合面の高度は標高35m程度である。その上位には、下末吉層、下末吉ローム層、新期ローム層が累重する。これらのローム層中には下位より、klp降下軽石群、OP、TPなどの降下テフラが挟在される。 崩壊した崖に見られる上総層群は、シルト層が主体で一部(下半)に砂の層を挟む。小正断層も見られるが、特に破砕帯と言うほどでもない。シルト層中には、南北および東西走向の節理も発達する。 |
楔型崩壊 |
空中写真および現地での遠望観察からみると、モルタル壁のはがれた範囲は幅約60mと広いが、斜面が大きく崩れたのは、ほぼ中央部分のみである。この位置は、モルタルで覆われた斜面の方向が変化する、尾根状の部分に位置している。この中央部の崩壊は、その特徴的な形状から、不整合面直下の上総層群のシルト層中に存在した2方向の節理に沿うように発生した、楔型崩壊と考えられる。正面からの写真では、その2方向の節理面がV字型に見えている。 このような、くさび状ブロックの崩壊は、通常の風化による小崩壊とことなり、大きなブロックごと崩壊することがあり危険である。くさび状ブロックの存在は、岩盤内部の節理や断層の発達状況を精密に測定し、ステレオネット上で解析※するなどして、はじめて明らかにすることができる性質のものである。崖の表面がモルタルで覆われているような場合、割れ目の方向やその発達程度を測定することはきわめて困難であり、大きな課題を提示されたといえるのかもしれない。 |
崩壊のタイミング |
崩壊の直接的な原因(トリガー)については、直前に降雨も地震もなかったわけで、不明な点が多い。いくつかの前兆 的な現象も報告されており、今後の調査が待たれる。 今回、ある意味で、モルタル吹き付けの崩壊防止効果への信頼が揺らいだことになる。しかし、くさびブロックの下方 へのすべり圧力に抵抗して、モルタル中の金属網が、マスクのような位置関係で、引っ張り力によって前面から支える 効果を発揮し、崩壊の発生を遅延させた可能性はある。大崩壊の前兆となる亀裂や小崩落が北縁で見られたことや、残 されたモルタル壁の北端面が直線的形状を示すことは、そのことを示唆している。 |
謝 辞 |
群馬大学教育学部早川先生には、テフラの認定に関してご教示いただきました。京都大学防災研究所千木良先生には、崩壊の原因に関して、現地調査のコメントをご教示いただきました。東京都立大学の牛山さんには、横浜の気温変化についてご教示いただきました。神奈川県の急傾斜地崩壊危険区域図を使用しました。 |
参考文献 |
1/50,000地質図「横浜」地質調査所 岡重文(1991)関東地方における中・上部更新統の地質,地質調査所月報,42,11,553-653. LAND SLIDES:Analysys and control,special report 176,Transportation research boad national academy of sciences,1979.(邦訳)地すべり:その解析と防止工(下巻),社団法人地すべり対策技術協会. |
|
●崩壊地の地上写真(2月28日千葉撮影) |
|
現在、緊急対策工事が進行中で、北側半分の金網が取り付けが完了。命綱をつけた勇敢な人たちが、V字型に見えるくさび型崩壊の直上のローム層部分の整形中。手前のマンションの屋上には、取材中のマスコミの姿が見える。ステレオ写真でみると、構造が明瞭。 |
|
ステレオ写真 |
|
1)「根岸住宅竹林説がけ地崩落対策委員会」今井五郎/横浜国大教授(地盤工学)・太田猛彦/東大教授(国際森林環境学)・奥園誠之/九州産業大教授(土質力学)・中村浩之/東京農工大教授(山地保全学)・安江朝光/(財)砂防・地すべり技術センター専務理事(地質工学)(3月4日朝日新聞朝刊による) |
■ 本ページについて |
このページでは、弊社による自主撮影結果を掲載しております。現在の状況把握や今後の防災対応等の資料としてご活用いただき、現地の復旧にお役に立てれば幸いです。 本ページで紹介している画像は、撮影した斜め空中写真の一部を、サイズを縮小して掲載しています。斜め空中写真のオリジナル画像やデータに関するお問い合わせは、以下までお願いいたします。
【お問い合わせ先】 ■報道関係の方はこちらへ アジア航測株式会社 経営企画部 TEL:044-969-7290 E-mail:service@ajiko.co.jp ■行政・研究機関・企業のお客様ははこちらへ アジア航測株式会社 営業統括部
|
■ 当ページ掲載写真の二次利用について |
下記の要領で、災害写真の使用許諾申請書をFAX、郵便、または電子メールにてお送りください。
※弊社ホームページ掲載画像以外の高解像度データまたは焼き増しした写真をご提供する場合は別料金となります。 【送付先】 アジア航測株式会社 営業統括部(災害写真担当) |
■ 著作権について |
本ページで公開している文書および画像の著作権は、下記を除き、すべてアジア航測株式会社に帰属します。 本ページで得られた情報について許可なく、転載、販売、出版、公開をしないでください。 |
■ 免責事項について |
弊社では、本ページの作成にあたり、細心の注意を払い正確な情報提供を心がけておりますが、 その内容の正確性・妥当性については一切責任を負いません。掲載されている情報の内容が 明らかに間違っている場合は、訂正・削除致しますので上記までご連絡ください。 |
関連リンク
関連ニュース
- 2021/10/28:「第5回斜面防災世界フォーラム」に出展します
- 2018/04/16:大分県中津市耶馬溪で発生した斜面崩壊(2018年4月)第三報
- 2018/04/13:大分県中津市耶馬溪で発生した斜面崩壊(2018年4月)第二報
- 2018/04/12:大分県中津市耶馬溪で発生した斜面崩壊(2018年4月)第一報
- 2014/09/05:土木学会平成26年度全国大会に参加します(終了しました)
- 2014/09/04:(公社)日本地すべり学会の現地見学会における斜面崩壊実験の実施について
関連製品
-
内陸直下型地震による崩壊の特性の解明 <事例報告>
<緊急災害対応(事例報告)>
関連論文
- 平成26年度土木学会全国大会 第69回年次学術講演会 超小型模型ヘリによる斜面崩壊箇所プロファイリングの適用に関する一考察
- 第49回地盤工学研究発表会講演集 平成23年台風12号により発生した三重県東紀州地域の斜面崩壊の特徴
- 第49回地盤工学研究発表会講演集 平成23年台風12号により発生した三重県東紀州地域の斜面崩壊と降雨の関係
- 第63回平成26年度砂防学会研究発表会概要集 斜面崩壊における既往降雨に基づいた粘着力推定方法
- 第63回平成26年度砂防学会研究発表会概要集 地震による斜面崩壊危険度の絶対的評価に向けての検討
- 第63回平成26年度砂防学会研究発表会概要集 平成25年台風26号による伊豆大島災害調査報告(その3)根系の斜面安定効果に関する一考察
- 平成24年度砂防学会研究発表会概要集 富士山大沢川における航空レーザ計測による土砂移動実態の把握-静岡県東部地震に伴う斜面崩壊ならびに土石流の実態について-
- 平成20年度砂防学会研究発表会概要集 地震で発生する斜面崩壊の危険度評価システムの作成について
- 平成18年度 砂防学会研究発表会概要集 豪雨により淡路島で発生した山腹斜面崩壊での崩壊土層厚と斜面安定対策の検討
- 平成17年度 砂防学会研究発表会概要集 地震による斜面崩壊の危険度判定手法の検討