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次世代の底ヂカラ

~ 赤色立体地図で伊豆弧衝突模型をつくる ~

   

赤色立体地図ファンがいます。それも中学生!沼津市に住む杉山さんから、うれしい研究レポートが届きました。


彼女は、小学5年生の秋、近所の酒屋さんの敷地内で湧き出ている水が富士山の雪解け水だと聞いたことをきっかけに、地形や地質に興味を持ち、以降、


自分の住む地域を中心に、自ら考え、調べ、約4年間、毎年レポートとしてまとめてきました。今年、中学3年生の研究では、身近な海岸沿いの湧水現象・


地震と海沿いの液状化・津波と潮汐の関係、さらには余り知られていない身近な津波防災設備の現状の紹介を行っています。また、地震を起こす原因となる


プレートが伊豆半島を動かしてきた様子を、誰でも理解しやすいよう、模型を作製したそうです。

 

フィリピン海プレート上にある伊豆半島がユーラシア大陸プレート上の本州と衝突したことで、この付近には北西-南東方向に縮むような力が加わっています。

 

この方向と平行するように富士山・愛鷹山・ 箱根・伊豆大島の側火山が並んでいることも知られています。


ここでは、彼女の研究レポートから、その一部をご紹介させていただきます。

 

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~ 伊豆弧衝突模型を作製する ~


[伊豆弧(伊豆半島)衝突模型の作製]

 

今回、南東から北西に進んできた伊豆半島が衝突したことが上手く理解できるように、伊豆弧(伊豆半島)衝突模型を作製しました。
作製にあたっては、四万十帯に便利のHP(http://www.arito.jp/SI_04.2.shtml)を参考にしました。

通常の地質図よりも、赤色立体地図のほうが本来の地形の様子を見ることができるので、昨年ご紹介した赤色立体地図の製作会社であるアジア航測さんに相談に乗っていただき、地図情報を提供していただけました。具体的には、『活火山活断層 赤色立体地図でみる日本の凸凹』に掲載されていた海上保安庁海洋情報部で公開している海域火山データベースの画像と、アジア航測さんの赤色立体地図を、グーグルアース上で使えるようにデータを合成していただきました。

色が変わっている地域が、赤色立体地図をアジア航測さんからご提供いただいた地域です。グーグルアースで動作が可能です。
赤色立体地図は陸上の様子だけではなく海底地形もわかるので、伊豆半島が南の海から北上してきた地塊であることが理解しやすいです。



使用した赤色立体地図


沼津市・富士市・三島市などをみると、平野部は全て白っぽい。富士山や狩野川からの堆積物がたまった沖積層だとわかります。
駿河湾の最深部は水深2500m。伊豆半島はこの2500mの深さから塊で北西―南東方向に押されています。
つまり伊豆半島を氷山に例えると、私たちが住んでいるのは、動いている氷山の海上に見えている部分のような、ちっぽけな部分にあたります。


本図は、海域部を海上保安庁のM7000(1m等深線)と国境や沖合の等深線が疎な部分にGEBCOのデータを用いてSpline手法で50mDEMを生成し、これに国土地理院の50mメッシュ(標高)DEMで作成した陸域部と合成して作成した。

 


[伊豆弧衝突模型の作り方]


材料 ウレタンスポンジ2種類・アクリル板・インクジェット用アイロンプリント
   両面テープ・メンディングテープ・シール付フェルト・小物フック・木片
手順 ①グーグルアースの画像を、インクジェットプリンターでアイロンプリント用紙に印刷する。
   ②ウレタンスポンジに、アイロンプリントする。
   ③ウレタンスポンジの不要な部分をトラフやプレート境界付近でカットする。
   (伊豆弧の沈み込み口は境界が明らかになっていないので、カットしやすいように沼津―熱海の直線でカットしましたが、実際は箱根連山も伊豆弧に

    含まれます。また、相模トラフ南のフィリピン海プレートを扱いやすいように半分に切り離してありますが、実際はつながっています。)
   ④アクリル板をカットして、説明書きや海底地形の紙をテープで張り付ける。
   ⑤立てて展示できるように、アクリル板に小物フックや木片を付けて支柱にする。
   ⑥ウレタンスポンジの地塊を並べてできあがり。 

[結論]


作製した伊豆弧の衝突模型を北西―南東方向に力を加えてみたところ、見事に丹沢地塊や櫛形地塊、御坂地塊そして赤石山脈などにしわがよることが分かりました。

単純に北西―南東に押すだけの簡単な模型で、フォッサマグナやフィリピン海プレートの他の沈み込み地帯や太平洋プレートの動きを殆ど考慮していないので、実際のプレートの動きとはかなり違いますが、プレートの動きによって火山・山脈・盆地ができる仕組みなどをわかりやすく表現できたと思います。

現在もフィリピン海プレートは年に3~5㎝北上を続けていて、常に圧縮力がかかっています。圧縮力による割れ目ができている箱根や伊豆では、地中深くのマグマの影響を受けやすいので、地熱が高く温泉が湧き、私たちは自然の恩恵を受けています。しかし裏返せば、火山の大噴火・大地震・大津波等の自然災害の危険が常に身近にあることを示しています。

[おわりに]


今回は主に「防災」にからめて地学の研究をしてきましたが、日本で暮らすのなら地学を学んでおくべきだなと感じています。「土砂災害」「豪雨」「地震災害」「火山活動による被害」などについて授業でも習うのですが、殆どの学校でそれぞれに触れるのはたった数分でしょう。伊豆弧模型製作の考察をして触れたように、プレート同士の末端がせめぎ合う中で必然的に誕生した島弧日本は、常に火山噴火や地震の被害を受ける大きなリスクを背負っています。そんなことは分かっているよと思う人は大勢いるとは思います。私もそのわかっているよという人間の一員です。しかし自然は、地球は、大きなシステムです。色々な因果関係が複雑に絡み合い、今の状態を保っています。どれかの因果関係が崩れてしまうと、なにかしら必ず影響が現れるでしょう。

地球は意思など持っていないので、つねに地球環境を安定したものにしようと色々なシステムが働きます。当然そこに人間の感情は全く関与していません。火山が噴火したり地震が発生したり記録的な大雨が降る…ということは、地球が行っているごく「あたりまえ」の活動の一端なのです。「異常」などということはありません。人間はその地球システムを理解し共存しなければいけません。同じような災害の被害を繰り返さない為にも「過去」を知り、「未来」がもしかしたらこうなるかも、もしかしたら…。と心配症ではないかというくらい予測しておく必要があるのです。

災害想定も、あくまで「想定」なので想定以上のものが発生するという意識で、防災対策をしていくのがいいと思います。その為には嫌でも地学の知識は必要になってきます。日本に生まれて災害の被害を受けるリスクを背負うことは仕方ないことです。
みんなで生きていくためにも、必要最低限の知識が人々に定着してくれたら…と私は願っています。

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杉山さん、素晴らしい研究レポート、ありがとうございました。また、赤色立体地図を防災知識の向上のために効果的に使っていただき、本当に感謝します。

アジア航測は、私たちの技術が安全安心で豊かな社会に貢献できるよう、今後も活動を続けていきたいと考えております。


 
 
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