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みなさん、こんにちは。今村遼平です。
今回のテーマは「宅地に潜む危険」です。

独立行政法人防災科学技術研究所(防災科研)によると、日本の人口の3割にあたる約3800万人が、地震で揺れやすい軟弱な地盤の上に住んでいることが分かりました。軟弱な地盤は関東や大阪、濃尾、福岡など人口密度が高い平野部に広がっており、巨大地震に見舞われると甚大な被害が生じる可能性があります。
今回は、この軟弱地盤がなぜ危険なのか、また、液状化とはどんな現象なのかをみていきましょう。


わが国の低地の大部分は、厚さ30mに及ぶ海岸沿いの軟弱な沖積層からできています。したがって、一般的にいうと、沿岸低地のどこもここも地震被害を受けやすいところといえます。それが、沖積層が厚くなるほど、家屋の倒壊が多くなる傾向があるのは、地震波の増幅が建物の持つ固有振動の周期に支配されるためです。

長い吊り橋を渡る際、恐る恐るゆっくり渡っていると、だんだん橋の揺れが大きくなっていきます。これは吊り橋の揺れやすい周期と、渡るときに起こした揺れの周期とが一致してくるためです。むしろ、小刻みに走る方が揺れません。
これと同じように、地盤や建物もそれぞれに振動しやすい周期を持っており、これを「固有周期」と呼んでいます。東京都防災会議によると、木造平屋では0.3秒、木造二階建てでは0.5秒とされています。地震のときも、地盤とその上に建つ建物の固有周期が一致すると、建物の被害は著しく大きくなります。沖積層が厚くなると、木造家屋の固有周期と同じくらいのところで増幅率が非常に大きくなるため、木造家屋は倒れやすくなるのです。これに対して沖積層が薄いと、ビルや土蔵など固有周期の短い建物の方がむしろ被害を受けやすくなる傾向があります。

このように、地震による建物の被害は、①建物の強度はもちろんのこと、②建物の建っている低地地盤での増幅率と、③建物自体の固有周期が関係して、被害が大きくなったり小さくて済んだりするのです。

では、地震に弱い沖積層の厚いところというのは、一体どんなところなのか? それを一言でいえば、前に記した「軟弱地盤」地域です。わが国の場合、大河川の河口付近の沖積層は、40~60mの厚さを持ったところもあって、かつて広域地盤沈下の素因にもなっていましたが、そういうところは地震時の震度も大きくなります。

 


1978年6月12日の宮城県沖地震では、仙台市やその周辺にある造成地は大きな被害を受けました。とくに、南光台地区での被害は注目されます。国土交通省の調べによると、2011年3月11日の東日本大震災でも、仙台市西部の造成地地域などを中心に東北・関東の9県で950件の居住困難地が発生しています。
被害を受けた場所を見ると、いずれも切土部と盛土部の境界付近や造成地の周縁部に集中しており、切土部にはきわめて少ない。地下埋設物の被害もこれらの地区に集中しています。これは、切土部と盛土部とでは地震動の特性が違うためです。

宮城県沖地震でのこれら二回にわたる盛土部の被害を見てみると、次のようなタイプに分かれます。
 (1)盛土・切土境界部での家屋の崩壊や破損
 (2)盛土地の端での崖崩れやすべり
 (3)旧地形の谷方向に沿う亀裂の形成と、それに伴う家屋の破壊
 (4)盛土・切土境界部での地下埋設物の破損


盛土部の被害のタイプ

盛土部の被害のタイプ(地盤改良工事がされていないことを前提とした模式図)


これらの被害状況からすると、ひな段タイプの造成地では、地震動によって盛土部分が滑り出すために、盛土端にある擁壁に亀裂が入ったり、はらみが生じたりしやすく、ひどくなると擁壁の破壊によって、その上の住宅が全壊するだけでなく、破壊された擁壁によって下の段の住宅までもつぶされることがあります。

 


千葉県の浦安市は、東京オリンピックが開かれた昭和39年(1964)から干潟の埋め立てが始まり、当初の面積4.4km2から約17km2と、4倍も海側へと広がった地区です。この浦安市や市川市、そして九十九里浜地域では、1987年の千葉県東方沖地震でも、かなり液状化しています。筆者たちはその直前に千葉県全県の地震による被害想定調査をやりましたが、ほとんどそのときの“想定どおりに”地盤の液状化が起こり驚きました。

 

東京湾の赤色立体地図

東京湾の赤色立体地図による地形と、東日本大震災により東京湾岸で液状化がおきた主な地域
液状化対策を行ったところではその効果があらわれている
この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の基盤地図情報(5mメッシュDEM)を使用した。
(承認番号 平22業使、第278号)


東日本大震災では、東北から関東にかけて東京湾を中心に一万戸あまりの戸建て住宅が液状化により沈下したり傾斜したりしたことは周知の通りです。とくに浦安市や千葉県美浜の幕張などの埋立て地はことごとく液状化の被害を受けて、浦安市では3800棟が全半壊して注目されました。地中のマンホールが人の背丈くらい飛び出したり、道路が大きく波打ったり、マンションの歩道が隆起して凸凹になり、電柱が傾くなどの被害が出ています。これらの地域の多くは、1978年以前の被害想定でも液状化が起こることは予測されていましたし、実際、1978年にもかなりの被害を受けていたのです。

東日本大震災の地盤の液状化

東日本大震災の地盤の液状化(茨城県ひたちなか市那珂湊付近:梅津幸治氏撮影)



丈夫そうに見える地盤が、液体のようにふるまって流動するというのは信じられないことですが、地震の際、低地部ではほぼ確実に起こる現象です。この現象は次のように考えられています。

水で飽和された砂質の地盤が、地震の振動を繰り返し受けると、ゆすられて砂粒と砂粒との間にあった隙間が砂粒で埋められて、砂地盤全体の体積が急激に縮まろうとします。ところが、地震以前には砂粒の間の空隙は水で満たされているため、水は抜け出ようとしても、急には抜け切れません。このため砂粒と砂粒との間にある水の圧力、すなわち間隙水圧が瞬間的に非常に高くなって、砂粒は水に浮いた状態になり、砂の粒子と粒子との間の絡み合いが外れて、砂粒はバラバラの状態になってしまう。つまり、瞬間的に砂粒が地下水の中に浮いた状態となり、地盤全体が液体の状態に変わります。

液状化のメカニズム



その結果、この部分が割れ目に沿って噴砂・噴水となって噴き出したり、水より比重の大きな「液体」の持つ浮力で、空洞のある浄水槽やマンホール・杭など相対的に軽いものが浮き上がったり、逆に重い建物などが沈んだり傾いたりするのです。

 


このような地盤の液状化は、低地のどこででも起こるわけではありません。これまでの実績から見ると、一般に、
(1)旧河道や埋立て地など、新しくできたルーズな砂質地盤地域
(2)粒度のわりと揃った砂地盤(中~細粒の砂地盤)地域
(3)地下水位が高い(浅い)地域(地表からマイナス2~3m以浅)
の3つが複合された場所が特に起きやすいといわれています。

これを低地の「微地形のタイプ」と対応させてみると、①埋立て地、②旧河道、③三角州(デルタ)地帯、④砂・泥質で傾斜のゆるい谷底平野、⑤自然堤防の周縁部、⑥周りの低地と同レベルまで底平に切土した旧砂丘地などに多いことになります。

埋立地の中でも、とくに池や沼地をうめたてたところで激しい液状化が発生します。このため、地方自治体によっては、かつての池や沼地などのあった場所がわかる「液状化ハザードマップ」を作っているところもあります。

濃尾平野や福井平野のように、(1)扇状地帯、(2)自然堤防帯、(3)三角州帯の小地形帯(これら(1)-(3)のような低地の区分を、小地形区分と言います)に分かれるような低地では、後背湿地と自然堤防が入り交じった自然堤防帯の、旧河道や自然堤防の周りに多く発生しやすいことがわかっています。
これに対し、前述した信濃川や阿賀野川下流域・庄内平野・秋田平野などのように、海岸沿いに砂丘があって、平野の多くが三角州からなるところでは、砂丘背後の低湿地や大河川の蛇行帯の低地に起きているようです。扇状地は液状化しにくいのですが、天竜川や大井川などのような扇状地性の平野では、扇状地末端の湧泉地帯に発生しやすいことが報じられています。

東日本大震災で大被害を受けた浦安市や習志野市など埋立て地や海岸沿いの低地に広がる軟弱地盤上の砂質の盛土地は、とくに被害を受けやすい土地です。日本海中部地震の際、秋田県の海岸沿いのゆるく傾斜した新しい盛土地盤では、家屋が地盤ごと3m近くも流動していったところもあります。完全に倒壊・破損しなくても、土台が破壊されたり、破損が激しくて使えなくなったところも多く見られました。

このように、地盤の液状化は低地の微地形と密接に関係して発生しますから、微地形タイプによって液状化の危険度を次のようにランク分けすることができます。

 1)液状化の危険度が大きいところ(ランクⅠ)
 ①旧河道、②埋立地、③盛り土地、④泥質な谷底平野、⑤堤間低地、⑥潟湖跡地、⑦高水敷、⑧三角州、⑨おぼれ谷埋積地

 2)液状化危険度が中位のところ(ランクⅡ)
 ①ポイントバー、②砂洲・砂堆、③砂丘周辺部、④自然堤防、⑤台地上の湿潤な谷

 3)液状化の危険度が小さいところ(ランクⅢ)
 ①崖錐、②扇状地、③沖積錐、④砂礫からなる谷底平野、⑤網状の流間低地、⑥砂礫洲、⑦旧中洲

これに対し、台地や丘陵地・山地では地盤の液状化はまず起きません(前述のようにごく稀に、台地に刻まれた浅い谷部でおこることがありますが)。

 


液状化のリスクを確認するには、前述のとおり、微地形タイプから判断する他、海岸沿いの市町村の多くでは「ハザードマップ(災害危険予測図)」あるいは「液状化マップ」(これもハザードマップですが)を作成していますので、それを参照するといいでしょう。なお、現在、自治体では先の東日本大震災を受けて、液状化予測の見直しが行われているところも多いようです。
国土交通省では自治体が公表したハザードマップをとりまとめた「国土交通省ハザードマップポータルサイト(http://disapotal.gsi.go.jp/index.html)」を開設しています。

 

東京の液状化予想図
ネット等で公開されている東京の液状化予想図(平成24年度改訂版) (東京都HPより引用)


今村センセイの地震タテ横ななめmini
 2013年5月23日発刊「安全な土地」
次回もご期待ください!  2013年5月23日発刊「安全な土地」(東京書籍1700円税別)もよろしく!