森林・環境
標準化を目指した山腹工の定量評価手法<事例紹介>
さまざまな手法による山腹工評価の方法
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はじめに
砂防事業、治山事業によって施工された山腹工は、まだ初期緑化が行われて間もない箇所や、さらに目標林へと誘導すべき箇所があります。また、当初想定したようにうまく緑化が進まなかったところもあります。施工箇所の植物群落あるいは樹林に対して適切な評価を行い、保育工や林相転換工などの維持管理を施し、自然再生への過程を滞りなく進めていくことが重要です。この概念は国土交通省を中心として進められた山腹工・緑化工検討・推進ワーキング(WG)で検討されました(図1)。
ここでは、山腹工の現状を評価するためのいくつかの新しい手法について紹介いたします。
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明るすぎず暗すぎない森林へと成長しているのか?
かつて、森を仕立てる人たちは、林内の明るさを見ながら間伐などの維持管理を行ってきました。適度に明るい林では、高木の林冠からの木漏れ日によって林床が多様な植生に覆われ、雨による土砂流出が抑制されます。
光は植物個体の成長・維持・繁殖・競争の一要因として重要なファクタです。ここでは、樹林の光環境を評価する方法として、光量子センサ(Li-cor 社製)を用いた評価を提案しています。光合成に使われる400~700nmの波長に着目した光環境の簡便な調査手法として、光量子密度(μmol/m2/s)を林内と林外で同時計測し、林外に対する林内の値の割合を相対光量子密度(%)として示します。その結果から林分の光環境を評価し、また、林冠の状況を把握するため、魚眼レンズによる全天写真撮影を行います(図2)。
さらに、林分の多様度を把握するために植生調査を行い、林床に出現する植物種数をカウントします。
各測定地点における光量子密度と林床の植物種数についての結果(図3)をみると、森林になりつつある集団2および集団3では、高木層が発達し、相対光量子密度は10%~ 30%未満になっていました。一方、森林になっていない集団1では、相対光量子密度は30%以上を示していました。特に集団3は、山腹工施工済み地域のうち、森林を形成しつつあると考えられるプロットで、高木層の樹冠が発達し、林床に出現する植物種数が多くなっています。このように、複数の山腹工で成熟した森林が形成されつつあることが光環境を評価することにより示され、広葉樹林の林分内の相対光量子密度が10%付近になるような管理をした場合に、林内(林床)に出現する植物種数=多様性が増大することが期待できます。
左:自然性二次林ヤマハンノキ-ミズメ群落、右:約25年経過した山腹工ヤマハンノキ群落
図2 魚眼レンズにて撮影した林冠の状況2)
図3 相対光量子と林床に出現する植物種数の例2)
樹木は元気に成長しているか?
樹木の葉の葉緑素量を測定することにより、植物が良好に定着しているかを確認するための評価手法として、葉緑素計SPAD-502(コニカミノルタ社製)を用いた葉緑素量の測定法があります。この葉緑素計は、植物を傷つけずに瞬時に測定できることが特長です。一般にSPAD 値は、樹種により異なった値を示しますが、25前後より大きい数値を示していれば活性が高く、図4に示す例では、どの樹種もSPAD値は34~46に収まっており、樹木が元気に成長していることを示しています。
図4 SPAD-502による計測と結果の時系列評価例
山腹工の総合評価をめざせ!
総合的に山腹工全体を評価できる手法として、(1)山腹工の主目的である「土砂生産源に対する表土侵食の防止(土砂生産・流出、落石の状況)」と(2)成立している樹林の「植生状況(樹高区分・樹種・本数密度)」に着目し、これらの調査結果を点数化し、簡便な評価が行えるよう、山腹工評価指標(HI:Hillsideworks Index)として整理しました(図5)。
図5 山腹工評価の考え方3)
これと合わせて、山腹工の環境を評価する目的で、土壌中に生息する小型節足動物であるササラダニの種組成によって評価する方法を考案しました。ササラダニは、地球上どこでも同様な環境には同様な群集がみられるため、環境省の環境評価手法の1つ4)にもなっています。
ササラダニは、表 1に示すようにM群、G 群、P 群に分類され、青木(1983)5)は、MGP 分析という手法を提唱し、一般に森林土壌中ではG群の種数がM群やP群の種数を大きく上回ることを示しています。これを応用して、対象山腹工における全体種数に対するG群の種数の割合を「ササラダニ指標G(%)」として山腹工を評価しました。
本手法は、ササラダニの種組成から、調査地点の土壌・環境を類推することができます。
表1 ササラダニの分類3)
急崖部での山腹工の土壌流亡、落石防止機能の評価をする場合には山腹工評価指標(HI)を用いた方が現況を表現できます。一方、ササラダニ指標(G)を用 いた評価手法は、樹林について着目した手法ですので、樹林化した山腹工の環境をよく示します。このように、HIおよびGにより、WGで示された山腹工整備 の概念を具体的な数値として総合的かつ時系列的に定量評価できるようになりました(図6)
図6 山腹工評価指標とその時系列変化3)
終わりに
ここで紹介した山腹工評価手法は、いずれも同一基準で評価するための標準化を目指した事例です。山腹工の評価方法は発展途上ですから、ここで紹介した手法以外にも、まださまざまな手法があります。したがって、まずニーズを把握した上で評価すべき手法を選ぶことが重要であり、また今後の成果の蓄積が重要です。
■参考文献
1) 山腹工・緑化工検討・推進ワーキンググループ、これからの山腹工について-山腹荒廃地に緑を回復させるにあたってのポイント集-、2004
2) 中田慎・柏原佳明・小川紀一朗・高橋正行・細野貴司・高井徹、山腹工の評価手法に関する検討、平成18年度砂防学会研究発表会概要集、pp.442-443、2006
3) 田中秀基、八木沢和人、小島隆、薄井道則、中田 慎、秋山 怜子、小川 紀一朗、ササラダニによる山腹工の総合的評価手法の検討、平成21年度砂防学会研究
発表会概要集pp.466-467、2009
4) 環境省総合環境政策局環境影響評価課、生物の多様性分野の環境影響評価技術(III)生態系アセスメントの進め方について,2001
5) 青木淳一、三つの分類群の種数および個体数の割合によるササラダニ群集の比較(MGP分析)、横浜国大環境研紀要 10 、 pp.171-176、1983
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