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みなさん、こんにちは。今村遼平です。
今回のテーマは「危険な土地(軟弱地盤)の見分け方」です。

低地で安全な土地を選ぶには、低地の「問題児」つまり「豆腐」のような軟弱地盤がどこにあり、それがどういう性質かを知ることが最も大切です。では、沖積低地の中のどういう微地形をしたところがどういう軟弱地盤であるかを、詳しく見てみましょう。


低地の微地形とは、平野部に認められる5m以下の微妙な凹凸をいいます。微地形は、地形図や航空写真、最近では立体的に地形を表現した地図もありますが、多少の訓練を積めばそのようなもので見分けることができます。

沖積平野(低地)を中心とした土地の大まかな評価をしてみると、建物や土木構造物の基礎として不適当な「軟弱地盤」には、海でできた地層(海成層)と陸地でできた地層(陸成層)があって、微地形単元でいうと、(a)おぼれ谷埋積地(オボレダニマイセキチ)、(b)三角州(サンカクス)、(c)潟湖跡地(セキコアトチ)(以上は主に海成層)、(d)せき止め沼沢地跡(セキドメショウタクチアト)、(e)堤間低地(テイカンテイチ)、(f)旧河道(キュウカドウ)、(g)丘陵・台地間の谷底低地(コクテイテイチ)、(h)後背湿地(コウハイシッチ)など(これらは陸成層)がこれに当たります。これに対し、扇状地や自然堤防・砂州・砂丘などは非軟弱性の地盤で、問題は少ないと言えるでしょう。

関東地方全域の赤色立体地図+高度段彩図(NASA SRTM-3データから作成 90mメッシュ)

この図はおおむね海抜6m付近まで藍色にみえるように調整しています。その範囲は縄文海進のときには海だったので、現在でも地盤が軟弱なところが多くみられます。


(a)おぼれ谷埋積地(海成層)
現在の陸の谷の延長線上にあり、かつて(約20000~6000年前)の陸上でできた谷地形が、それ以降の海進によって海面下へ沈み、新たな堆積物(泥や粘土・シルトなどを主とする)で埋められたあと、再び海面が下がって地表に現れた堆積地形をいいます。有機物を大量に含んだ泥っぽい厚い軟弱地盤です。例としてあげると、千葉県の栗山川沿いの低地など、日本各地にあります。

(b)三角州(海成層)
現在の大河川河口部の低平な平野を、三角州(デルタ)と呼んでいます。三角州の表部には砂層が堆積しているため宅地地盤として問題は少ないのですが、地震による液状化が起こりやすい場所です。我が国の場合、主要河川の三角州の地層の堆積順序は、下位から次のように大別できます。①沖積層基底礫層、②沖積層下部砂層、③沖積泥層、④沖積上部砂層、⑤沖積陸成層。 三角州が軟弱地盤として注目されるのは、主として縄文海進時に形成された、③の沖積泥層がちょうど“あんこ”のように厚く堆積しているところです。これに対し、①沖積層基底礫層や②沖積層下部砂層、④沖積上部砂層などは軟弱ではなく、重構造物でない限り建物の基礎地盤となりえます。

地形模式図
地形模式図(日本建築学会「小規模建築物基礎設計指針」の図を加工)

(c)潟湖跡地(海成層)
浅い海の一部が砂丘や砂州などによって外海と絶縁されてできた潟湖(せきこ ラグーン。現在でいうと、網走湖や能取湖のような形態の潟湖)には、泥や粘土・シルトなどが澱んだ水のもとで堆積するため、悪質な軟弱地盤ができやすくなっています。このようなところが陸化したのを潟湖跡地と呼びますが、現在でも水田として利用される程度で、建物を建てると不同沈下を招くだけでなく、広域的な地盤沈下も起きやすい場所です。

(d)せき止め沼沢地跡(陸成層)
利根川などのように土砂供給の多い大河川では、主河川から氾濫した土砂が川の両側にあふれて小渓流や支川をせき止めるように堆積して沼地を作り、そこに支川からの泥水がたまって次第に軟弱な地層ができていきます。こういったところで沼地が消滅したあとの地形を、せき止め沼沢地跡といいます。やはり不同沈下で家は傾きやすいし水はけが悪く、居住性が悪い場所です。

(e)堤間低地(陸成層)
砂丘列と砂丘列との間の細長い低地のことを、砂丘間低地とか堤間低地、あるいは堤間湿地と呼びます。地下水位が浅く、粘土層や砂質粘土などからなり、水はけが悪く、不同沈下や地盤の液状化も起きやすい場所です。

(f)旧河道(陸成層)
洪水などによって河川の流路が変わって水が流れなくなると、昔の河道の一部が本川から切り離されて小さな沼(三日月湖)が残ったり湿地になったりします。このような昔の河川跡のことを旧河道と呼び、表部の2、3mには粘土を主とする軟弱地盤が分布しています。水はけが悪く、大洪水のときには洪水流の主流路になることも多いから、洪水災害に対しても危険です。地震時には地盤の液状化が起きやすくなります。

(g)丘陵・台地間の谷底低地(陸成層)
山地や丘陵・台地等を刻んだ谷に沿ってひも状に細長くつづく平野を、谷底(こくてい)平野とか谷底低地と呼んでいます。関東以北では俗に「谷地(やち)」と呼ばれ、中には非常に湿潤で軟弱地盤になっているところも多いのですが、一般的には、軟弱地盤の厚さはせいぜい表部2~3m程度で、5mを超えることは稀です。

(h)後背湿地(陸成層)
現在の河道や昔の河道の両岸に断続的に広がる微高地(河川の洪水時にできたもので、周辺より0.5~5mほど高い部分)を自然堤防といいますが、その内側(川と反対側)にあり、自然堤防と台地もしくは山地・丘陵地などとの間にある低地を、後背湿地や後背低地と呼んでいます。海成層ほど軟弱ではないが、やはり低地で水はけが悪く、洪水時には水につかりやすく、平常時の不同沈下も起きやすい場所です。


このほか、火山噴火物により谷がせき止められてできた軟弱地盤(例:天城山の大室山の溶岩流によるせきどめによるもの)や、大規模な断層によって活断層沿いの凹地にできた軟弱地盤(例:丹那断層の凹地にできたせきどめ湖によるもの)、地すべり土塊のせき止めや、宅地開発や道路などの人工的な盛土によるせき止めによってできた軟弱地盤などもあります。

地形の見方については、国土地理院のホームページ「地形判読のためのページ」(http://www1.gsi.go.jp/geowww/Photo_reading/handoku2.html)も参考になります。

新潟県中越地震
平成16年新潟県中越地震で発生した地すべり崩壊によって川が堰き止められ形成された小規模な河道閉塞(山古志村)



今村センセイの地震タテ横ななめmini
 2013年5月23日発刊「安全な土地」
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