森林・環境

リモートセンシングによるナラ枯れ被害の早期把握の試み<事例紹介>

航空写真と衛星画像(WorldView-2)およびレーザ計測データによる解析


図1 カシノナガキクイムシ
近年、カシノナガキクイムシ(図1,以下「カシナガ」とします)が集団で木に孔を開けて入り、病原菌を持ち込むことで生じる「ナラ枯れ」が全国的に広がっています。兵庫県では北部を中心に発生していた被害が徐々に南部へ拡大しています。 六甲山系では2010年に初めてナラ枯れが確認されました。ナラ枯れにより樹木が集団枯損すると、土砂災害の危険性や景観を損なうことが懸念されるため、早急な対策を講じることが求められます。しかし、六甲山系は広大な面積を有しており、現地調査によってナラ枯れ被害の全てを把握することは困難です。そこで2011年に、六甲山系グリーンベルト整備事業で公有地化された範囲を対象として、一度に広範囲の調査が可能となるリモートセンシング技術を活用し、効率的・効果的にナラ枯れ被害を把握する手法について検討を行いましたので紹介します。

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六甲山系におけるナラ枯れ被害の現状と特徴


2011年撮影の航空写真と衛星画像解析および現地調査の結果、ナラ枯れで枯死した「枯死木」は2本、カシナガが穿入したが生存している「被害木」は6本でした。枯死木と被害木ではカシナガの穿入により幹から掻き出された木屑(フラス)が根元に積もり(図2)、枯死木は萎れた葉を多くつけた状態で立ち枯れていました(図3)。
2010年では、3本の枯死木と6本の被害木が発生し、枯死木には伐倒燻蒸処理、被害木には樹幹注入処理などの対策が講じられました。この結果、2011年は集団枯損に至りませんでしたが、2011年の被害が前年の枯死木から概ね100m以内で発生したことから、被害木から発生したカシナガが病原菌を広めた可能性が推察されます。
また、ナラ枯れは胸高直径(DBH)30㎝以上のコナラに発生し、カシナガは比較的大径の樹木を繁殖場所として選択し利用していることが確認できました

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ナラ枯れ被害の危険箇所の把握


ナラ枯れの早期発見のためには被害発生危険箇所の把握が重要です。その一手法として、航空レーザ計測データによるナラ枯れ発生地点の立地解析を行いました。
ナラ枯れ発生地点は、標高200~300mに集中し、斜面方位は西向き斜面に偏り、全被害地点が疎な林分などから40m以内に位置していることがわかりました。
ナラ枯れ被害の多い大径木の分布を推定するため、現地調査により地形区分と樹高および胸高直径を把握し、LPデータ解析により得られる樹高データから胸高直径を推定する式を導きました(図4)。
 この結果を基に、ナラ枯れが発生する可能性の高い地形や林相の特性から被害ポテンシャルを評価し、六甲山系におけるナラ枯れ被害の危険箇所を推定しました。

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航空写真および衛星画像を用いた被害の把握


ナラ枯れ被害の把握にあたってリモートセンシングがどの程度役立つかを確かめるため、被害発生地周辺にモデルを設定し、航空写真(DMC)と衛星画像(WorldView-2)の解析を行いました。

<指標>
植生の健康状態を表す指標は多数提案されていますが、検討したものの中で代表的な指標として、NDV(I 正規化植生指標)、RV(I 非植生指標)、NW(I ナラ枯れ指標)の3つについて以下に紹介します。
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■NDV(I 正規化植生指標)=( NIR-R) /( NIR+R)
※衛星画像の場合は、NIRの代わりにRededgeについても検討しました。
■ RVI (非植生指標)= NIR/R
■ NWI (ナラ枯れ指標)1)=-NDGI×(NDVI+NDGI)
 ※NDGI =( G-R)/(G+R)
 NIR:近赤外, R:赤, G:緑
 Rededge:植物の微妙な健康状態の変化を検出することができる波長帯域として知られています。
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<結果>
航空写真の解析の結果、指標画像のNDVIとRVIを用いることによって、枯死木を単木レベル(地上分解能12㎝)で特定できることがわかりました。
衛星画像については、まず、調査対象の樹木についてスペクトル特性を把握しました(図5)。短い波長では健全木と枯死木などの違いが明らかではありませんでしたが、波長の長いRededge(705~745nm)や近赤外域では、健全木に比べて、枯死木の反射率が明らかに小さいことがわかりました。
衛星画像の解析の結果、NDVI画像やRVI画像から枯死木の抽出が可能であることがわかりました。また、NWIやNIRの代わりにRededgeを用いたNDVI画像の場合でも同等の精度で枯死木を抽出することができました(図6)。
 一方、被害木については、健全木と分光スペクトルが類似していることから、抽出に限界があることがわかりました。
 Rededgeについては、植生の健康状態や植生の微妙な変化を捉える可能性が高いと知られていますが、今回は撮影のタイミングが紅葉期にさしかかったなど諸要因のため、被害木抽出の有効性は認められませんでした。

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今後の展開


今回の検討では、現地調査とLPデータ解析により得られたナラ枯れ被害発生地点と標高・斜面方位・疎林からの距離との関係に基づいて、ナラ枯れの早期発見を図るため、被害発生の危険性が高い範囲を絞り込みました。
また、航空写真と衛星画像を用いた解析では、NDVIなどの指標画像から枯死木の抽出を面的に行うことができることが明らかとなりました。
今後は、ナラ枯れ発生状況と立地および画像解析結果との照合による検証を重ね、ナラ枯れ被害の早期発見に役立つ被害発生予測の精度向上に取り組んで行きます。

本内容は、国土交通省近畿地方整備局六甲砂防事務所より提供頂いた「六甲山系ナラ・マツ枯れ調査業務」報告書データを用いて作成しています。

1) 宇都有昭ほか:可視/近赤外ハイパースペクトルデータに基づくナラ枯れ指標NWIに関する研究,写真測量とリモートセンシング,Vol.49,No.5,p.294-309,2010


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