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みなさん、こんにちは。今村遼平です。
今回のテーマは「都市における災害リスク」です。

軟弱な地盤は、関東や大阪、濃尾、福岡など人口密度が高い平野部に広がっており、独立行政法人防災科学技術研究所(防災科研)によると、大都市の住宅密集地並みの過密地域(1キロ四方に1万5千人以上)の場合、住民の半数以上が軟弱な地盤で生活していることになるそうです。
この人口の過密によって、増大する危険には、どのようなものがあるでしょうか?


2008年12月5日、政府の中央防災会議の「東南海、南海地震等に関する専門調査会」(座長:立命館大学教授の土岐憲三氏)は、巨大地震で生じるゆっくりとした揺れ「長周期地震動」の影響度を示す日本地図を公開しました。それによると、影響を受けやすい地点は、東京・大阪・名古屋の大都市圏のほか、札幌市・新潟県・長崎県などに分布しています。また、今世紀前半に起こってもおかしくない東海地震、東南海や南海地震では、軟弱地盤上での長周期地震動の増幅、大規模な液状化の発生が懸念されています。

長周期の地震動は、平野部など軟らかい地盤の堆積層、いわゆる「軟弱地盤」で増幅されて長く続きます。また、長周期地震動は、短周期の揺れに比べて衰退しにくく、遠くまで伝わる性質があります。2004年の新潟県中越地震(M6.8)では、東京の六本木で震度3の揺れによって超高層ビルのエレベータのケーブルが切れるなどの被害がありました。

地盤や建物はそれぞれ振動しやすい固有周期を持っています。
固有周期は概ね高さに比例します。一般的な高層建物の場合、高さをH (m)とすると概ね固定周期T =(0.015~0.02)H(日本建築学会, 2000)で、周期2秒以上の長周期地震動は、戸建住宅をはじめ低層のオフィスビル・マンション等の建物の構造体にはほとんど影響しません。これに対し高層の建物には、その固有周期が長周期地震動の周期に一致すると、激しく共振して非常に大きな影響を与えると考えられています。

首都圏の代表的な長大道路橋は、揺れ方によって固有周期が4~9秒程度に変わることが示されています(地震調査研究推進本部,長周期地震動予測地図2012年試作版,小森・他, 2005)。また、大型の石油タンクでは、長周期地震動により、内部の液体が揺さぶられるスロッシングと呼ばれる現象が起こり、液体があふれる現象も発生します。2003年の十勝沖地震(マグニチュード8.0)では、北海道苫小牧市の石油タンクが共振で揺れ、火災が発生しています。

 


1923年の関東大震災が世界でも稀な大災害となったのは、地震火災のためといえるでしょう。1923年9月1日午前11時58分、地震発生と同時に東京・横浜・小田原・厚木・秦野・鎌倉・横須賀などの大小の都市で、一斉に火災が発生し、折からの強風にあおられて大火災となりました。

火災被害を大きくした原因には、①出火件数が多かったこと(出火数134、延焼拡大火災数77件)、②消防力が弱かった(当時のポンプ台数はたった31台)、③風が強かった、④地震で水道が壊れて断水した、⑤すべての通信連絡が途絶えてしまった、⑥道路への家財道具当の持ち出しが消防活動の妨害や延焼の媒介になった、などがあげられます。

消防力の強化やガスの自動消火機能の整備など、現在では改善されている点もありますが、こと大災害を想定したとき、いまでもこれらの危険が大きいことを忘れてはなりません。

火災危険度は、地震による火災地震による出火の起こりやすさと、延焼の危険性、出火の起こりやすさは、ガスコンロ、電気ストーブ、化学薬品などの数や使用状況などから算定されます。延焼の危険性は木造建物が密集している地域で高くなり、耐火建物が多く道路・公園などの公共施設が整備された地域では低くなります。

 


関東大震災での豊富な地震火災の実績や新潟地震での石油タンク火災、十勝沖地震での石油ストーブからの出火、宮城県沖地震での薬品類からの出火、東日本大震災による千葉県市原市のコスモ石油千葉製油所での高圧ガスタンクの爆発・炎上、兵庫県南部地震の地震火災でのライフライン復旧後の通電火災の教訓などを踏まえると、明らかに「地震火災発生のメカニズム」が浮かび上がってきます。それらをまとめると、下の図のようになります。

地震火災のメカニズム


地震火災を防ぐには、この地震火災発生のメカニズムをよく理解しておくと、防災効果が大きくなります。

 


兵庫県南部地震では、緊急車両の火災現場への到着までに時間を要したために大規模な火災となりました。特に古い町並みの木造家屋が多い住宅密集地では、延焼の危険性とともに、火災発生時に消防車などの緊急車両が進入できない細い通路や行き止まりの路地が多いことも問題になるでしょう。震災時の消防施設から出火点までの移動距離および都市構造や道路状況も、その地域の危険要因になります。道路面への建物や電柱等の倒壊による、消防車が通行不能になることも大きな問題です。

阪神・淡路大震災航空写真
阪神・淡路大震災航空写真集(1995,アジア航測)より



また人間の活動領域の変化によって、あらたなタイプの災害も起こりえます。 たとえば、都市部の地下道や地下街などの発達も地震や火災の際の新たな災害要因をつくっているともいえるでしょう。中高層住宅はその構造上、エレベータの停止や、水・ガスなどのライフラインの停止が起こりやすく、建物が倒壊しなくても避難せざるを得ない状況に陥ってしまうことが考えられます。そのため各家庭がそういった状況に備え、飲料水や食料、簡易トイレなどの備蓄を多く用意する必要があります。

外出時に地震にあった際には、落下物にも注意が必要です。特に高層ビルの多いオフィス街では割れた窓ガラスや外壁、看板などが頭上から落下してくることが予想され、首都圏では、約2万棟の建物から物が落下すると言われています。

 


関東大震災や阪神淡路大震災などで大被害をもたらした地震火災は、初期消火を心がける、ブレーカーを落として避難する、ガスの元栓を締めるなど、ほんの少し気をつけるだけで未然に防ぐことができるものです。
家の中での被害のうち、約80%が住宅や家財等の倒壊・転倒が原因です。阪神・淡路大震災の知見から、震度6強から震度7の地域では旧基準適用の木造建物の被害が大きいこと、さらに都市部のマンションなどの中高層住宅では、「長周期振動」による振幅が1秒以上のゆっくりとした揺れが伝わると、1~数メートルを往復するような揺れが数分にわたり継続して、観測された震度以上の被害が起きる傾向があることがわかっています。木造住宅の耐震対策や特に高層マンションではL字金具や固定ベルトなどを使った家具の耐震対策を講じることで、地震被害を小さくたり全く無くすことも可能になります。

 


平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震によって発生した、首都圏における大量の帰宅困難者による混乱等は、首都直下地震に備えて帰宅困難者対策を官民あげて一層具体化していく必要性を顕在化させました。
このため、内閣府(防災担当)と東京都は、首都直下地震発災時における帰宅困難者等対策について、平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の教訓 を踏まえて、国と地方公共団体・民間企業等が、それぞれの取組に係る情報を共有するとともに、横断的な課題について検討するための協議会を設置し、約一年にわたり各テーマ別に活発な議論を展開した上で、平時における準備や災害時における行動指針をとりまとめました。

協議結果は全体を網羅した「最終報告」と、利用対象者別に対策をまとめた5つの「ガイドライン」として2012年9月に発表され公表されています。

ガイドライン

たとえば、「事業所における帰宅困難者対策ガイドライン」には、最終報告の「第2章 一斉帰宅の抑制」と同様に企業が行うべき取り組みが「平常時」、「発災時」、「混乱収拾時以降」の段階別にまとめられています。また、首都直下地震帰宅困難者等対策協議会の最終報告とガイドラインでは、備蓄品目とその目安、一斉帰宅抑制のフロー例、施設内待機にかかわる計画(案)など、様々な帰宅困難者対策が具体的に提示されています。

 



今村センセイの地震タテ横ななめmini
 2013年5月23日発刊「安全な土地」
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